
Vol.14
「自分から動いてほしい」と思ったときに、最初に見直したいこと
指示待ちに見える現場の違和感
「最近の社員は、なかなか自分から動いてくれない」
「任せたい気持ちはあるが、どう関わればいいのかわからない」
企業の現場で、管理職や経営者の方からこうした声を聞くことは少なくありません。
誰も怠けているわけではない。与えられた仕事はきちんとこなしている。
それでも、職場全体として前に進んでいる感覚が持てない――
そんな停滞感に悩んでいる現場も多いのではないでしょうか。
こうした場面では、「主体性を高めよう」「当事者意識を持たせたい」といった言葉が使われがちです。
しかし、現場を丁寧に見ていくと、必ずしも社員の意欲や能力だけの問題とは言い切れないケースが少なくありません。
むしろ多いのは、
「どう動けばよいのかが見えない状態」
あるいは、
「動いた結果、どう評価されるのかが読めない状態」
が続いていることです。
日常の関わり方が、行動の選択を変えている
例えば、次のような関わり方に心当たりはないでしょうか。
・「任せるよ」と言いながら、途中で細かく修正してしまう
・部下が失敗したとき、挑戦した過程よりも「うまくいかなかった結果」に目が向いてしまう
・相談に来た部下に、「それくらい自分で考えて」と返してしまう
どれも、忙しい現場では自然に起きてしまうことです。
少しでも早く正解に近づいてほしいという思いがあるからこそ、生まれる関わり方でもあります。
ただ、こうした経験が積み重なると、部下の側には次のような学習が起こります。
「自分で判断するより、様子を見たほうが安全だ」
「まずは上司の反応を見てから動こう」
その結果として現れる行動が、いわゆる「指示待ち」に見えていることも少なくありません。

主体性は「関係性」の中で育つ
人は、安心して試行錯誤できる余地があるときに、自分で考え、少しずつ動き始めます。
逆に、何を大切にすればいいのかが見えにくい環境では、慎重になるのは自然な反応です。
主体性とは個人の性格や意識だけで決まるものではなく、
日々の関わり方の中で育まれていくものだと言えるでしょう。
私自身、これまで多くの企業の現場で「自分から動く人材を育てたい」という相談を受けてきました。
その中で感じるのは、育成とは人を“動かす技術”というよりも、
「動いても大丈夫だと思える関係性をつくる営み」に近いということです。
明日からできる、小さな関わり方の変化
例えば、
・行動の結果だけでなく、その背景にある意図を聞く
・途中段階でも、「ここまで考えたんだね」と言葉にする
・失敗を評価対象とするのではなく、学びとして扱う
こうした小さな関わり方の積み重ねが、現場の空気を少しずつ変えていきます。
大きく制度を変えなくても、日常のマネジメントの中でできることは意外と多いものです。
「自分から動いてほしい」と感じたとき、私たちはつい、相手をどう変えるかを考えてしまいます。
しかし実際には、上司の“見方”や“問いかけ”が少し変わったときに、
人の行動が自然に変わり始める場面を、私は何度も見てきました。
現場から変化は始まる
もし最近、現場に少し停滞感を感じているなら、
次の問いを一度、自分自身に向けてみてください。
「最近、部下が自分で判断した場面はあっただろうか。」
「そのとき、自分はどんな言葉をかけただろうか。」
「そして、安心して動ける材料を、渡せていただろうか。」
主体性は、スローガンや指示だけで生まれるものではありません。
日々の小さな関わり方の中で、静かに、しかし確実に育っていくものなのだと思います。
なお、こうした「関わり方が変わることで現場が少しずつ動き始めるプロセス」については、拙著
『こうして私たちは現場から会社を変えた』でも、実際の現場の試行錯誤をもとに紹介しています。
制度や研修だけでは届かない、現場からの変化に関心のある方は、あわせて手に取っていただければ
幸いです。

本書をもとに、
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執筆者プロフィール
山下 浩史(ニコトモ株式会社/メイツ中国パートナー講師)
リクルート、マツダなどを経て、社会人の教育格差 をなくしたいという思いから、ニコトモ株式会社を設立。経営者、人事担当者と対話を積み重ね、人事制度の設計・運用支援や各種研修プログラムを設計・実施。
慶應義塾大学ビジネス・スクールケースメソッド授業法研究普及室認定ケースメソッド・インストラクター
Webサイト(https://25tomo.com/)

