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部下の指導・育成

Vol.3

部下の指導・育成

野口 和裕
有限会社NTX/メイツ中国契約講師

みなさま、こんにちは。有限会社NTXの野口です。
今回は管理職にとって重要な仕事である部下の指導・育成について解説します。

人材育成ににかかる時間と段階

専門家によると、一般に、人がある領域に精通するためには5000時間ほどの時間がかかるといわれています。5000時間といえば、1日8時間で月20日労働したとして、2年半以上かかる計算になります。また時間だけではなく、一人前にしていく為には育成内容も変えていく必要があります。

認知科学者コリンズは、認知的徒弟制理論によると4つの段階が必要といっています。

第一段階:手本になる・・・ベテランが模範を示し、新人がそれを見てまねる。
第二段階:助言する・・・・ベテランが新人を手取り足取り指導し、助言する。
第三段階:支援する・・・・新人が自分でできるところはまかせて、できないところだけを支援する。
第四段階:自立させる・・支援を少なくしていき新人を自立に導く。

育成には時間も段階も重要ということになりますが、現状はなかなかその余裕がないかもしれません。人手が減る傾向にある中、働き方改革で仕事時間も増やせないといった悩みもあると思います。しかし育成をおろそかにすると、最終的には自分が増々苦しくなっていきます。できるだけ短時間で部下を育てる方法を理解し、実践する事が大切です。
今回は育成の中でも支援する段階から自立させる段階で役に立つ「振り返り」について説明します。

体験学習サイクルと振り返り

仕事の体験をどのように自分のものにして自立していくか、そのためには体験を教訓化していく必要があります。それが体験学習の「振り返り」といわれているものです。仕事で体験することを学んでいく過程は次の4つのステージに分解されると提唱されています。

【体験】→【指摘】→【分析】→【仮説をたてる】→(再び)【体験】→【指摘】→・・・
いわゆる『体験学習サイクル』と言われるものですが、「振り返り」と呼ばれるのは、上記の指摘、分析、仮説を立てるところを指します。

言い換えると、【ある出来事】を【何が起きた・何をしたかを改めて見つめ直させる】、【上手くいったor上手くいかなかった原因を考え・気づきを得る】教訓化し、【教訓を元に次の計画を立てる】といったサイクルを、ぐるぐる回し積み上げていくことで、部下の自立と成長を促すのです。

例えば、営業組織における上司と新人の部下というシチュエーションに置き換えて考えてみましょう。

営業組織における上司と新人の部下というシチュエーション

【体験=ある出来事】
・新人営業が、新規のお客様と商談した。

【指摘=何が起きた・何をしたかを改めて見つめ直させる】
・新規で初対面だったが、1時間近く話をすることができた。
・話の導入で商品の紹介ではなく、お客様の課題から質問した。
・お客様から質問がたくさん出ていたので、興味を持って話を聞いていたように感じた。
・他社事例の紹介はひかえた。

【分析=上手くいったor上手くいかなかった原因を考え・気づきを得る】
・課題のヒアリングはうまくできた。
・お客様からの質問にうまく答えられなかった。
・興味を持ってもらえたが、逆に商品説明が上手くできなかった。

【仮説化=教訓を元に次の計画を立てる】
・お客様は商品説明よりも、自身の課題を聞いてほしい。そのため更に課題を整理するためのヒアリング力高めよう。
・お客様からの質問に答えられなかったのは、商品知識がないからなので、先輩・上司に教えてもらう時間を作ろう。
・商品説明は先輩社員に同行して、見て真似てみよう。

体験学習では、以上のプロセスで得られた仮説を再び【体験】で活用し、この循環を再び繰り返していきます。体験だけにとどめて、仮説をたてなければ、同じような失敗を繰り返すかもしれません。また仮設をたてたことによって、次に体験したときに仮説が違っていた場合、再度仮説を修正し、段々仮説が正しくなっていく可能性が高まります。

振り返りのやり方

振り返りのやり方は、仕事で何かを体験したときに、部下に具体的な指導をするのではなく、各ステージに応じて質問を行い、部下に考えさせます

【指摘ステージでの質問】
・何が起こったのか?
・何が起こらなかったのか?
・体験で何を感じたのか?
 ここでは、評価せず、具体的な事実を考えます。特に部下がミスをしてしまった場合は、責めないように配慮しながら質問する事が大切です。

【分析ステージでの質問】
・なぜ起こったのか?
・どんな意味があったのか?
・なぜ、そう感じたのか?
 ここでは、指摘で明らかになった事を分析します。部下が自分で原因を掘り下げるように質問していきます。

【仮説化ステージでの質問】
・次はどうするか?
・何を学んだか?
・どう応用できるか?
 分析した事を元に、次回にどうするかを具体的に考えさせます。自分が悪かったとか、次に注意しますといった精神論にならないように、行動レベルで考えさせる事が、次の仕事に活かすことにつながります。

体験学習のサイクルは、終わりなく循環しています。仮説化も、あくまで仮説です。次回の体験で検証していきます。サイクルが回ることにより、より質の高い体験になっていきます。自分でこのサイクルを回せるようになることが、自立ということになります。
また振り返りを行うと、失敗から教訓を導き出せるという事もわかります。部下がそれを理解すると、失敗を恐れずにチャレンジするようになってきます。人が育つためにはチャレンジが必要です。振り返りは、体験から学ぶ事だけにとどまらず、チャレンジしていこうという意欲を高める事にもつながります。

次回は仕事の管理・改善について解説します。

執筆者プロフィール

野口 和裕(有限会社NTX/メイツ中国契約講師)
キャリアのスタートはシステムエンジニアとして一部上場企業や官庁で各種システムの設計に従事。平成16年能力開発研修を業務とする有限会社NTXを立ち上げ、代表取締役就任。現役のエンジニアとして現場感覚を伝える研修には定評がある。専門はチームワークを引き出し組織を活性化させる手法として、ファシリテーション、リーダーシップ、コーチング等の研修や、イノベーションを起こすダイアログ研修、学習する組織など。

Webサイト(http://www.ntx.co.jp/