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Vol7 後継者は経営革新のシナリオを描くべし(会社の成長回路編)

Vol.7

後継者は経営革新のシナリオを描くべし(会社の成長回路編)

川路 隆志
株式会社えんのした/メイツ中国契約講師

はじめに

前回(第2回)は、「後継者は事業承継の本質に気づくべし」と題して、①「事業承継」に対する誤ったイメージが後継者を受け身にしてしまう点、②事業承継の本質に気づくことで、受身から脱し、事業承継の成功に向けたスタートを切ることができる点、についてご紹介いたしました。今回(第3回)は、「後継者は経営革新のシナリオを描くべし」と題し、事業承継の成功のために後継者が「会社の成長回路」をどう回していくべきか?そのヒントをご紹介いたします。

「会社の成長回路」とは何か?

事業承継の本質を踏まえて上で、後継者がまず取り組むことは「会社の(新しい)成長回路」を回し始めることです。なぜなら、事業承継の成功は、スムーズにバトンタッチができたか否かではなく、10年後、20年後に会社が「成長」しているかどうかによって判断されるべきだからです。以下ではどのような視点で後継者が会社の(新しい)成長回路を回していけば良いのかをご紹介します。

私が理事として関わっている一般社団法人軍師アカデミー※1では、後継者が取り組むべき会社の成長回路を次のように4つの視点で表しています。

第1は、「自社の客観視」です。後継者が自社の現状を徹底的に把握することです。理由は、承継する会社のことを知らない状態で継いでしまって、継いだことを後悔する後継者が少なくないからです。具体的には、①事業面(ビジネスモデルは陳腐化していないか、など)、②人・組織面(従業員の満足度はどう変化しているか、組織体制は今後どう変化するか、など)、③財務面(収益性、安全性の基準は何か、どう変化してきたか。借入金はどこから、いくらあって、金利%で何が担保に入っているのか、など)、④統治基盤面※2(持株比率の状況、各種法令違反につながる慣習はないか、など)を後継者が決算書や内部資料を確認しながら、数値ベースで把握していきます。把握できない場合は、先代経営者や従業員とともに新たに作成します。

第2は、「新経営者がリードする新会社像の確立」です。承継前に後継者が「どのような会社を目指すのか」を考えるということです。理由は、乗っ取り手である後継者が自分の意志で新会社像を明確にしなければ組織を一枚岩にすることはできないからです。また、自分の意志で描いた新会社像だからこそ今後の苦難を乗り越える際の判断軸となるからです。具体的には、経営理念や事業ドメイン※3を再構築します。

第3は、「目指す姿への全体戦略の構築」です。事業、人・組織、財務、統治基盤それぞれに関して、後継者が具体的な戦略を考えることです。理由は、具体的で筋の通ったストーリーがなければ、従業員や利害関係者を巻き込んで、価値を生み出し続けることができないからです。具体的には、「事業の価値向上戦略」、「人・組織の掌握戦略」、「財務体質の強化戦略」、「統治基盤の確立戦略」、などがあります。後継者単独で考えることが難しい場合は、事業承継の本質を理解されている専門家(ブレイン)とともに考えることが望ましいでしょう。

第4は、「新経営者による価値を生み出す経営革新」です。後継者が「学習する組織」を作り上げていくことです。理由は、会社が絶えず経営革新を行い、価値を生み出し続けるためには、経営者1人の腕力では限界があるためです。具体的には、組織、チーム、個人に対してPDSサイクルを何度も、速く、深く回す場を作ることです。そうすることで、社員が目標と自己統制によって、自律的に行動できる状態を作り出します。会議に外部のファシリテーター※4を招聘して効果的な手法を用いた問題解決を経験したり、研修によって組織の活力を上げたりする取り組みが必要でしょう。

以上、事業承継の成功のために、後継者は具体的にはどのような視点で会社の成長回路を回していけば良いのかをご紹介しました。経営には必ず不測の事態が起こります。例えば、現経営者が突然倒れる、予期せぬ災害が起こる、等です。だからこそ、上記のプロセスを後継者は自らの手で一日でも早く描き、いつどのようなことがあっても経営者になれる準備をしておく必要があるのです。

まとめ

ただし、会社の成長回路だけを考えても現実的にはうまくいきません。理由は、会社は経営者の器以上に成長することはできないからです。では、何をすれば良いのか。 その答えは、後継者が「自身の成長回路を回す」ことなのです。詳しくは第4回目で。

第3回目の今回は、「後継者は経営革新のシナリオを描くべし(会社の成長回路編)」と題して、事業承継の成功のために後継者が「会社の成長回路」をどう回していくべきか?についてご紹介いたしました。第4回(最終回)は、「後継者は経営革新のシナリオを描くべし(自身の成長回路編)」と題し、事業承継の成功のために後継者が「自身の成長回路」をどう回していくべきか?そのヒントをご紹介いたします。

※1 事業承継を題材に人の成長を支援する体系的なプログラムを東京、大阪で開催している。筆者は同法人の理事である。
※2 ここで言う統治基盤とは、会社の統治の土台となるものとしての株式の保有状況やコンプライアンスの遵守等のことである。
※3 事業領域。事業で収益を上げるためにどの領域で戦うかを考えること。誰にどのような価値をどのような強みで提供するのか、選択・集中・差別化といった基本的な視点を押さえながら後継者が主体的に定義する。
※4 成果を出すために、中立的な立場で会議やミーティングのプロセスを支援する人のこと。

執筆者プロフィール

川路 隆志(かわじりゅうじ)

(株式会社えんのした/メイツ中国契約講師)

中小企業診断士、経営学修士(MBA)

 

専門は「事業承継における組織活性化」。岡山大学大学院修士課程では、「ミドルマネジャーの管理者行動」を研究。現在は、事業承継、経営革新の礎となる「組織づくり」や「人づくり」を中心に、コンサルティングや研修活動を行っている。

 

所属

株式会社えんのした 代表取締役

一般社団法人軍師アカデミー理事

株式会社後継者の学校顧問

NPO法人岡山NPOセンター顧問

 

Webサイト(http://www.ennoshita.co.jp/