Vol.5
後継者は受け身になりやすいことを自覚すべし
はじめに
はじめまして。中小企業診断士の川路隆志(かわじりゅうじ)と申します。突然ですが全国の社長の平均年齢はいくつかご存知でしょうか。帝国データバンクの「全国社長年齢分析」(2020年)によると、平均年齢は59.9歳と過去最高を更新しています。この数値は年々上昇し続けています。事業承継問題が待ったなしで噴出することは間違いなさそうです。
そんな問題意識から、今回は、「事業承継の本質と、後継者がやるべきこと」について、全4回に渡ってご紹介いたします。第1回目のテーマは、「後継者は受け身になりやすいことを自覚すべし」です。
「受け身」の後継者が事業を失敗に導く
後継者を語る上で外せないのが、後継者は「受け身」になりやすい点です。後継者に「いつ社長になるのですか?」と質問すると、多くの後継者が「まだわかりません、まだ親父に継げと言われてないので」という類の回答をされます。この回答であれば受け身確定です。後継者は何時でも、経営者になれる状態を作っていなければならないにもかかわらず、その状態にいない回答だからです。
受け身でいると時間はあっという間に過ぎます。そして、突然現社長が倒れるなどした時に、現実を知ることになります。例えば、蓋を開けたら①借金で資金繰りが回らない、②ビジネスモデルが古く売上減少に歯止めがかからない、③従業員が疲弊し辞めていく、④株が分散し第三者に乗っ取られる、などです。こうして、後継者は、継いでから継いだことを後悔することになるのです。
後継者が受け身になる理由
ではなぜ、多くの後継者は「受け身」になるのでしょうか。理由は、後継者は「特有の立場」に置かれているからです。
特有の立場としては、第一に、中途半端な存在、が挙げられます。後継者は、継ぐまでは経営者でもないが、一般の従業員とも違う微妙な立場です。例えば、頑張ろうと思って前に出れば「そこまでしなくてよい」と裾を踏まれ、何もしなければ「後継者のくせに」と陰口を叩かればます。まさに中途半端な存在です。
第二に、会社の内情に関して知らないことが多い、が挙げられます。例えば、決算書を見たことがないという後継者も少なくありません。もちろん、売上くらいは把握していると思いますが、どの金融機関から、いくらを、何%の金利で、借りていて、どんな担保が入っているか、を即答できる人はほとんどいません。現社長もなるべく良い財務体質で息子にバトンタッチしたいので、「今は金のことは気にしなくていい。わしに任しとけ」と親心から見せたがらない場合も多いからでしょう。
第三に、自分で自分の人生を描いたことがない、が挙げられます。生まれた時から、なんとなく後継者になる雰囲気の中で育ち、レールが引かれている感覚です。自分はこれがやりたいということすら考えることなく、当たり前のように自分の会社に就職するのです。
なんとなく入った父親の会社で、既に事業がそこにあり、前に出なくても会社は回る。そして特に何も知らなくても、現場の仕事を淡々とこなしていれば会社は回っていく。こうして、本人が気づかないうちに受け身になっていきます。
これらは、後継者「本人」が悪いのではありません。後継者は特有の立場にあるから何もしなければ誰でも受け身になっていくのです。(ちなみに、創業者に受け身はあり得ません。創業者はお客さんゼロ、社員ゼロから、やりたいこと主体的に始めますし、もし受身の創業者がいたら売り上げはゼロでしょう(笑))。
では、どうすれば後継者は受身から脱し、事業承継の成功に向けたスタートを切ることができるのでしょうか。その答えは、後継者が「事業承継の本質を知る」ことです。
まとめ
第1回目の今回は、「後継者は受け身になりやすいことを自覚すべし」と題して、受け身の後継者が事業承継を失敗に導く点や、後継者が受け身になる理由として特有の立場が関係している点をご紹介いたしました。次回は、「後継者は事業承継の本質に気づくべし」と題し、どうすれば後継者が受け身から脱し、事業承継の成功に向けたスタートを切ることができるか?そのヒントをご紹介いたします。
執筆者プロフィール
川路 隆志(かわじりゅうじ)
(株式会社えんのした/メイツ中国契約講師)
中小企業診断士、経営学修士(MBA)
専門は「事業承継における組織活性化」。岡山大学大学院修士課程では、「ミドルマネジャーの管理者行動」を研究。現在は、事業承継、経営革新の礎となる「組織づくり」や「人づくり」を中心に、コンサルティングや研修活動を行っている。
所属
株式会社えんのした 代表取締役
一般社団法人軍師アカデミー理事
株式会社後継者の学校顧問
NPO法人岡山NPOセンター顧問